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最高裁判所第一小法廷 昭和45年(行ツ)115号 判決

上告人 林重雄 外二名

被上告人 中央選挙管理会

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人林重雄、同植田武雄、上告補助参加人らの代理人加藤了の上告理由第一について。

日本国との平和条約(昭和二七年条約第五号、以下平和条約という。)のごとき、主権国としての我が国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有する条約の効力の有無について法的判断をするには、司法裁判所は慎重であることを要し、その法的判断は、当該条約が一見極めて明白に違憲無効であると認められないかぎりは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであると解するを相当とすること、そしてこのことは、本件のように平和条約三条の効力の有無が前提問題として争われている場合であると否とにかかわらないこと、及び平和条約三条が一見極めて明白に違憲無効とは認められない(上告人らがあげる日本国憲法前文の国民主権主義、憲法一五条、同九二条、同九五条はいずれも平和条約三条と関係がない。)ことは、最高裁昭和三四年(あ)第七一〇号同年一二月一六日大法廷判決(刑集一三巻一三号三二二五頁)の趣旨に照らし明らかである。したがつて、平和条約三条の有効無効の判断は裁判所の司法審査の範囲外であるとした原審の判断は、結論において正当である。論旨は採用することができない。

同加藤了の上告理由第二について。

所論は憲法適用の誤りをもいうが、その実質は、法令の効力の地域的限界に関する原審の判断を主張するものにすぎないと解すぎないと解すべきである。

ところで、復帰前の沖縄が我が国の領土であり、その住民が日本国籍を有するものであつたことは、所論のとおりであるが、平和条約三条により、アメリカ合衆国が、右地域及び住民に対し、行政、立法及び司法の一切の権力を行使する権利(いわゆる施政権)を有していた結果、我が国の統治権が右地域に及ばなかつたことは明らかであり、したがつて、アメリカ合衆国の同意があつた場合は格別、我が国の法令の効力も右地域には及ばず、これを適用することはできなかつたものといわなければならない。これと同旨の原審の判断は正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

上告人林重雄、同植田武雄、上告補助参加人らの代理人越山康、同山本草平の上告理由について。

復帰前の沖縄に我が国の法令の効力が及ばず、これを適用することができなかつたことは前述のとおりであるが、沖縄に在住する日本国民が右地域において選挙権を行使することができなかつたのは、右地域に公職選挙法の効力が及ばず、同法を適用することができなかつたことに基づくものであつて、所論のごとき公職選挙法の規定の不備によるものではない。したがつて、公職選挙法の規定に不備があることを前提とする所論違憲の主張は前提を欠く。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 岸上康失 大隅健一郎 藤林益三 下田武三 岸盛一)

上告理由書〈省略〉

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